傀儡の恋
37
「すみませんが、ラウさんには僕の弟、と言うことにしておいてもらいます」
ブレアがそう言ってくる。
「まぁ、それが無難だろうね」
元の遺伝子のせいだろう。ラウとブレアはよく似ている。そんな二人が連れ立って歩くのであれば、それが一番無難な関係だろう。
「ただ、どう見ても私の方が《弟》にしか見えないのは不満だが」
あの男がいったい何歳のときに彼らが作られたのかはわからない。だが、その時にはもう、自分はこの世に誕生していた。
そう考えれば間違いなく実年齢は自分の方が上だろう。
「……それについてはあきらめてくださいとしか言えませんね」
苦笑とともにブレアはそう言い返してくる。
「僕の方が先に目覚めているのですから」
さらに付け加えられた言葉にラウは少しだけ眉根を寄せた。それはつまり、彼の方が先にこの世を去ったと言うことだ。
おそらくだが、その時の彼はキラ達よりもまだ幼い少年だったのではないか。
「そういうことにしておこう」
だが、それを口にしても意味はないだろう。
「それで、私は何をすればいいのかな?」
過去は変えられないのだから、と呟くとそう問いかける。
「あなたはとりあえず普通にしていてください」
それに対する答えがこれだ。
「普通に?」
「えぇ。図書館に行こうと買い物をしようと日中はご自由に」
ただし、と彼は続ける。
「申し訳ないけれど、夜は付き合って欲しい」
「……私を口実にすると?」
抜け出す、と言外に付け加えた。
「そういうことになるね」
苦笑とともにブレアはそう言い返してくる。
「そこで接触したい相手がいる。だから、口実になってくれると嬉しい」
それも《一族》の指示なのだろうか。
「必要だというのならば、指示に従うのはやぶさかではないよ」
ラウはそう言い返す。
「そのために私達がいるのだろう?」
さらにそう付け加えた。
「……すみません」
「君が謝ることではない」
謝るとすれば《一族》だろうとは口に出して言わない。だが、彼には十分伝わっているはずだ。
「だが、図書館があるとはね。楽しみだな」
自分の知りたい情報があるとは限らない。それでも暇つぶしには十分役に立つ。
それに、とラウは心の中だけで続ける。
過去に切り捨てられた仮説の中にヒントがあることがまれにあるのだ。
それを探すのは砂粒の中から砂金を探すよりも難しい。
だからと言ってあきらめるわけにはいかないのだ。
「そうですね」
ブレアもそう言って頷く。
「あそこは静かでいい場所です」
だが、彼が付け加えた言葉に思わず笑い出したくなる。彼の遺伝子提供者ならば決して口には出さないセリフだと思ったのだ。
それを理性で必死に押さえ込む。
「何か、おもしろいものがあればいいのだが」
「確かに」
こう言って頷きあう自分達を周囲はどう思っているのだろうか。ふっとそんなことを考えてしまった。